episode46印鑑
妻はある業務を請け負う会社の代表をしています。
そのため忙しい時は、本当に食事をする間だけしか休憩がないって時もあります。
それは仕事量が膨大ってことだけでなく、妻の完璧主義も影響しています。
私からすると、そこまで完璧に仕事しないで、うまく手を抜くのも必要だと思うのですが、妻には手を抜くって感覚が許せないようです。
だからこそ普通だったらすぐに終わる仕事にも時間がかかり、結果的に食事する間だけしか休憩がないってことになっています。
もちろんそれは妻の凄いところであり、クライアントからの評価が高いゆえんでもあります。
私はそんな妻から仕事を頼まれることもあります。
そんな時は、企業などから仕事を頼まれる時より緊張します。
万が一でもミスがあればどんなに怒られるか分かったものではないからです。
仕事は常に完璧にこなす、そんな妻ですが、唯一弱点があります。
それは印鑑を真っ直ぐ押せないことです。
何度も真っ直ぐに押す方法を教えてあげましたが、一度として真っ直ぐ押せたことはありません。
妻は会社として仕事を請け負っているので、契約書などにも社判を押す機会が多いです。
そのため社判を押す時は真っ直ぐ押せるよう、相当緊張するそうです。
特に大きな仕事で、契約金額の大きなものを請け負う場合の契約書に押印する際には、少しでも真っ直ぐ押さなくてはと意識するそうです。
ある日のことです。
その日も妻と私の生活サイクルはすれ違っており、私が寝ている時に妻が仕事をするってパターンでした。
私の仕事がひと段落したのは、翌日のお昼過ぎでした。
疲れてボロボロ状態で、やっと寝ることができました。
熟睡していると、妻がいきなり私の部屋に入ってきました。
そして「ちょっと!!」
「起きてくれない!!」と私をゆすって起こします。
「何…? 何かあった…?」と寝ぼける私。
「どうしても今すぐにやって欲しいことがあるの!」
「早く起きて!!」と私を起こして妻は自室に戻ります。
こりゃきっと何かトラブルでもあったんじゃないだろうか…
どうしたんだろう…って思い、眠い目をこすりながら妻の部屋に行きました。
妻の部屋に行くと、テーブルの上に書類が広げられています。
そして「ここと、ここに社判を押して欲しいの」って…。
「へっ…?」
「ハンコを押すの?」って聞くと、
「そうよ、大きな金額の仕事だから社判は真っ直ぐ押したいの!」
「今日の集荷に間に合うように送りたいから、早く押して!!」
「真っ直ぐにね!!」
わけが分からず、とりあえず社判を押すと、
「すごいわぁ! 本当に真っ直ぐね!」
「さすがね!!」
というと、契約書一式をポストに投函するため飛び出していきました。
時間を見ると、夕方の4時です。
要するに、その日の集荷に間に合うよう契約書を投函しないといけないので、私を叩き起こして社判を押させたってことでした。
帰ってきた妻に「社判なんて真っ直ぐじゃなくても大丈夫なのに…」っていうと、
「私は完璧主義なのよ!」
「大きな金額の契約書なのに、社判が歪んでると嫌でしょ!」
「あなたには分からないの?!」
って、顔を真っ赤にして怒られました…。
社判を押すだけなのにそこまで完璧を求めるって…
そんな人、なかなかいませんよね…。
でも…
真っ直ぐ社判を押すことができるのを褒めてくれる…
こんな妻のことが大好きです。。。