episode10お好み焼き
妻と私は、お互いに関西出身です。
二人とも子供のころから「粉もの」と呼ばれるお好み焼きやたこ焼きなんかを
しょっちゅう食べていたので、今でも大好きです。
なかでも、お好み焼きには目がありません。
昔…かなり昔には…
妻が時々料理をしてくれたことは書きましたが、
お好み焼きも数少ないレパートリーに含まれていました。
このお好み焼き、「しらたきソバ」と違って実に美味しく、
ふわふわで、野菜のうま味があって、こりゃすごいと唸るものでした。
特にキャベツが千切りではなく、全部細かく刻んであったのが印象的でした。
キャベツを全部刻むってことは、相当時間がかかるってことでもあります。
家庭用の小さなまな板で全部細かく刻むんですから、そりゃもう大変です。
それに、こだわりがあるからこそ細かい色んなところにも注意を払っていたようで、
調理するのにもいっぱい器が必要でした。
大きなボールを幾つ使っていたでしょう…。
下ごしらえが出来てから、目の前で焼いてくれる時の油の量や焼き方も、
ストイックなほどでした。
私がうっかりコテで押さえつけようとすると、
顔を真っ赤にして「そんなことしたら硬くなって美味しくないでしょ!」
って怒りながら指導されました。
ここまでやってくれるので、美味しいのも分かるんですが…。
準備から食べ始めるまでに3時間ほどかかりました。
それに食べている間中、頻繁に「美味しい?」って聞いてきます。
その度に「美味しいよ。お店でも作る?」とか、
「今まで食べたお好み焼きのなかでも一番美味しい」とか、
「こんなの食べたことない」など
毎回違う誉め言葉を探さないと、不機嫌になります。
ここまでは美味しいお好み焼きを作ろうとするストイックな姿勢ゆえだと
納得はできます。
ですが…
このストイックというのも曲者で…
おそらく疲れきってしまったのでしょう。
食事が終わると、妻はもうヘトヘトです。
さすがに見ていられず、「台所の片付けと洗い物はやるよ」って言うと、
「そりゃそうよ! 」
「これだけ絶品のお好み焼きを作ったんだから、そのぐらいしてよね!」
とのこと…。
台所へ行ってみると、もうびっくりです。
キャベツの細切れや小麦粉が床のあちこちに飛び散り、
料理に使った幾つもの大きなボールやまな板、包丁がそのまま放置されています。
まるで一ヶ月程洗い物をしない台所を見ているようでした。
これを全部洗ってきれいにするのに、一時間を費やしました。
もう大騒動です…。
妻も相当疲れて懲りたのでしょう。
このお好み焼きは一度きりの幻の料理となりました。
私としても、誉め言葉を幾つも考えたり、
あのすごい量の洗い物と台所掃除がセットになっている料理は…。
でも…
美味しい料理を手早く作ってくれる
こんな妻のことが大好きです。。。