episode53口内炎
人間なら誰でも忙しい時や体調の悪い時は不愛想になったり、機嫌が悪くなるものです。
ただ妻の場合は、不愛想や機嫌が悪いを一気に飛び越えてしまい、顔を真っ赤にして怒るのです。
なので、そんな気配の時はなるべく余計なことをいわず、必要なことだけをいうようにしていますが、気配を察知するためには妻の表情や言動を慎重に判断しなければなりません。
この時の判断を間違えてしまうと地雷を踏んでしまうことになってしまいます。
私と妻はもう長く一緒にいますが、それでも未だに判断を間違えてしまって怒られることがあります。
その日の食事で妻が妙にゆっくり食べていたので、気になってどうしたのか聞いてみました。
すると口内炎ができてしまっており、食事をすると食べ物が当たって痛いとのことでした。
口内炎ができていない側だけで食べていたので、ゆっくりでしか食べられなかったのです。
妻は時々口内炎ができ、ひどい時には話すことすらも億劫になるようでした。
ただいつも数日で治っていましたので、ゆっくり食べればいいよって伝えました。
その後、妻から口内炎のことについていわれることがなく、別段機嫌が悪い様子もなかったため、私もすっかり忘れていました。
そのことがあった翌日のことです。
友人からたまたま聞いた話がすごく面白かったので、これは妻にも伝えなくちゃと、妻の部屋に行きました。
部屋の扉を開けると妻は満面の笑みで迎えてくれたのです。
その笑顔を見た私はなんだかうれしくなって、友人からの聞いた内容を一生懸命話し始めましたが、不思議なことに妻の満面の笑みは一瞬で消え去り、不機嫌そうな顔に変化していきます。
私は話している内容が上手く伝わっていないのか、それとも内容そのものが面白くないのかと思い、もっと分かりやすく話さなければと余計熱弁し始めました。
すると…
口内炎が痛いから、どうなってるのか鏡でみていただけなのに、いったい何を熱弁してるの?
話すのもつらいのに!
治ってからにしてくれる?!
と顔を真っ赤にして怒られました。
妻が笑顔だって思ったのは、歯茎にできた口内炎を鏡でみるため、口を横に開いていただけだったのです…。
それが私にはまるで満面の笑みのように思えてしまったのでした…。
その証拠に、妻の手には小さな鏡が握られていました…。
全てを察した私は、うん…と妻の部屋を後にしました。
口内炎が痛いのに、私がそのことを忘れてしまうほど普通にふるまってくれる…
こんな妻のことが大好きです…。