episode55フライパン
以前住んでいた戸建てから、現在のマンションに引っ越して間もなく4カ月になります。
やっと今のマンション生活にも慣れてきました。
マンションには戸建てと違う快適さもありますが、居住スペースがどうしても狭くなってしまうのはしょうがないのかもしれません。
今のマンションは広めのリビングを挟んで妻の部屋と私の部屋があり、リビングとそれぞれの部屋は扉1枚で区切られています。
リビングが間にあるためか、お互いが自分の部屋にいる時の音はそれほど聞こえないのですが、リビングからの音ははっきり聞こえてしまいます。
私たちはそれぞれが違う仕事を自宅でしているため、生活リズムも違う場合が多いので、リビングでの物音には注意しなくてはいけません。
少なくとも私は細心の注意を払っています。
それは、引っ越してきて間もなくのことでした。
その日は妻が朝方近くまで仕事をしており、私が起きた時に寝ていることが分かったので、なるべく音をたてないようにして朝ご飯を食べ、洗い物をしました。
お昼頃になって妻が起き、リビングに来たようだったので、私は自室の扉を開けて妻におはようと声をかけました。
しかし妻はムスっとした表情で、返事もしてくれません。。。
きっとまだ疲れが取れていなくて不機嫌なんだと思った私が、そのまま扉を閉めようとすると、妻が「疲れて寝ているのにガタガタ物音がして目が覚めたのよ!」。
「寝ている時はうるさくしないで!」と顔を真っ赤にして怒ります。
私は謝りましたが、妻はすぐ自室の扉をバン!と閉め、戻ってしまいました。
このこと以来、妻が寝ている時にはこれまで以上に物音をたてないよう、まるで泥棒のように足音にまで気を付けていました。
そんな生活が数日続いたある日のことです。
今度は私が忙しくなり、仕事を片付けながらも家事をこなしていました。
簡単な炒め物を作り、調理器具を洗って水切りカゴに置くと、ドッと疲れが押し寄せてきてしまい、自室の扉を開け放ったままベッドに横になって眠ってしまいました。
しばらくするとリビングから「ゴォ~ン! グワングワン! ゴン! ゴン!」というすごく大きな物音が聞こえてきました。
私はあまりにビックリして、ベッドの上でまるで阿波踊りのように手をブラブラさせてしまっていたようです。
私の踊る様子を見た妻は、
「アハハハハ! ごめんごめんッ…ワッハッハハハッ!」と涙を浮かべながら大笑いしていました。
どうもその音は、妻が水切りカゴに置いてあったマグカップを取ろうとして、一緒に置いてあったフライパンを床に落としてしまった音のようでした。
その後もしばらくの間、妻の笑いは止まらず、「扉閉めておくから、もう一度寝て」と言った後もリビングから「プププ…アハハハハ!!」という笑い声が何度も聞こえてきていました。
もちろん私が妻に文句などいえるはずはありません。
フライパンの大きな音ですっかり目が覚めてしまった私は、また仕事に戻りました。
私には常に厳しく、そして仕事が少しでもはかどるように笑顔で起こしてくれる…
こんな妻が私は大好きです…。