episode52可哀想なアタシ
どんなに人にも変身願望はあるはずです。
男性なら身長は高く、男らしい体格になりたいと思う人もいるでしょう。
女性なら目を大きくしたいとか、肌をキレイにしたいとか、足が細くなりたいとか考える方がいらっしゃるかもしれません。
しかし妻の場合は少し普通とは違うようです。
自分のことを分かっているのか…それとも全く分かっていないのかは不明ですが、時々あり得ないことを口走ります。
少し前のことです。
以前から妻が自宅から少し離れたスーパーの中にあるベーカリーのパンが食べたいといっていたので、そのスーパーへ買い物に行くことにしました。
そのベーカリーはそれほど値段が高くないのに美味しいので、私も大好きです。
妻が食べたいといっていたのは細長くて、中にフワフワのクリームが入ったパンです。
私はお惣菜系のパンを買うことにしました。
もちろん買い物は私の担当と半ば強制的に決められているので、スーパーへは一人で行ってきました。
お目当てのパンを買い、ついでに夕食も買い込み、買い物袋をパンパンにして帰ってきました。
自宅に着いて、待ちかねていた妻に「パン買ってきたよ」というと、嬉しそうに駆け寄ってきます。
私が買い物袋から妻のために買ってきたパンを出すと、なんと真ん中から折れ曲がり、中のクリームがパンの包装の中で飛び出してグチャグチャの状態になっているではありませんか。
細長いパンが他の買い物に押されて型崩れしないよう、買い物袋の一番上に入れていたのですが、持ち歩くうちに中に落ち込み、他の買い物に押されて折れ曲がってしまったようです。
もちろんわざとやったわけではありませんが、それを見た妻は、「いやっ…何これ!」と絶句しました。
そして買い物袋から私のお惣菜パンを取り出すと「何よ! 自分のパンは何ともなってないのね。私のパンだけこんなにして…これはわざとね!」
もちろん私は謝りましたが、妻は「面と向かって私に文句をいえないから、こんなところで嫌がらせをするのね…。」
そういうと独り言のように「こんな嫌がらせをされるなんて…可哀想なアタシ」とつぶやきました。
それ以来、何かある度に妻はパンの一件を持ち出し、まるで悲劇のヒロインになったように「可哀想なアタシ…」とつぶやくのです…。
自分とは対照的な悲劇のヒロイン願望をかなえながら、これまでとは違う形で私にプレッシャーをかけてくる…
こんな妻のことが大好きです…。